九月の植物たち
九月。夜の窓から、虫の声が入ってくるころ。
昼間はまだ半袖なのに、朝、タオルケットを肩まで引き上げている自分に気づく。お店に梨やぶどうが並びはじめて、麦茶を作る回数が、いつのまにか減っている。夏の名残があるうちに、暮らしのほうが先に、秋の支度をはじめています。
そして体には、夏のあいだ預けっぱなしにしていた疲れが、ここへきて少しずつ届きはじめます。
夏をちゃんと見送りたい気持ちと、もう少しだけ名残を惜しみたい気持ち。そのふたつを胸の中に並べたまま、九月は静かにはじまります。
そんな季節に、自然界のエッセンスをそっとそばに置いてみてください。長くなっていく夜を、あたたかく、やわらかく灯してくれるでしょう。
夏の疲れを、内側からくるむとき|ハーブ

カモミール・マロウ・リンデン
九月の疲れは、少し遅れてやってきます。
涼しくなったとたん、胃がもたれたり。夕方になると、ソファにぐったり座りこみがち。のどや肌の乾きも、そろそろ気になりはじめているかもしれません。
がんばった夏のぶんを、体は秋のはじめに、まとめて差し出してくるのです。そういうとき、ハーブはあたたかい一杯になって、おなかとのどと心を、内側からくるんでくれます。
カモミールは、りんごのような甘い香りを持つ、小さな白い花のハーブ。昔から、胃の疲れと寝つけない夜の両方に寄り添ってきました。湯気を吸いこむだけで、肩のあたりがふっとゆるむ。冷たいもので冷えた胃を、毛布みたいにやさしくあたためてくれる一杯です。
マロウは、ちょっとした魔法のようなハーブです。お湯を注ぐと、ポットの中が澄んだ青に染まって、そこへレモンをひとしずく落とすと、ふわっとピンクに変わる。とろりとした粘液質が、のどや胃の粘膜をやさしく守ってくれるので、乾きはじめた季節の心強い味方になります。
リンデンは、西洋菩提樹の花。はちみつを思わせる甘い香りが、なんとなくそわそわする夜の心をなだめてくれます。ヨーロッパでは、子どもからお年寄りまで、寝る前の一杯として親しまれてきました。長くなりはじめた夜の、ひとりの時間を心地よくしてくれる存在です。
取り入れ方
朝は、マロウだけをポットに入れて。青から紫へ移ろっていく色を、朝ごはんのそばで眺めながら。
夜は、カモミールとリンデンを合わせて、あたたかいまま。眠る一時間前くらいに、両手でカップを包んで、ゆっくりと。
💡 ポイント 九月は、冷たい飲みものから温かい飲みものへ、少しずつ切りかえていく月。暑い日でも、一日に一杯だけ温かいハーブティーをはさむと、秋のはじめの胃がほっと落ち着きます。(キク科の植物にアレルギーのある方は、マロウとリンデンで。)
ふいに、さみしさがやってくるとき|フラワーエッセンス

マスタード・ホワイトチェストナット・スクレランサス
九月の夕暮れには、ふいに、さみしさがやってきます。
胸のあたりが、どんより曇りがち。布団に入ってから、昼間の会話を何度も思い返したり。暑い日と涼しい日が交互に来るたび、気持ちまで揺れてしまうかもしれません。
それはきっと、夏を生ききった心が、秋の静けさに少しずつ目をならしている途中なのだと思います。
フラワーエッセンスは、花の性質を水に写しとった、とても繊細なレメディです。揺れる気持ちを抱えたままのあなたが、自分のペースへ戻っていけるよう、静かに寄り添ってくれます。
マスタードは、理由のわからない憂うつに。雲がすっと太陽の前を横切ったみたいに、急に心が暗くなる日のためのエッセンスです。沈んだ気持ちのそばにいながら、雲はいつか流れていくことを、思い出させてくれます。
ホワイトチェストナットは、同じ考えがぐるぐる回りつづける夜に。言えばよかったこと、明日やること。オルゴールのようにくり返す頭の中のボリュームを、そっと下げてくれます。夜長のはじまりに、静かな頭で眠りにつけるように。
スクレランサスは、気持ちがシーソーのように揺れるときに。長袖にしようか半袖にしようか、朝からクローゼットの前で迷うような、この季節らしい揺らぎ。あっちとこっちを行き来する心に、自分の真ん中がどこにあるのかを、ゆっくり感じさせてくれます。
取り入れ方
舌下に数滴、またはグラスの水に数滴落として。さみしさがやってきそうな夕暮れに一度、眠る前にもう一度。飲むその数秒だけは、スマートフォンを置いて、胸の真ん中に手をあててみてください。
💡 ポイント さみしさは、秋が深まるほど、心の感じる力をやわらかく育ててくれるものでもあります。まずは「いま、ちょっとさみしいんだな」と気づくところから。三種のうち、名前を読んで心がふっと動いたものを、ひとつ選んでください。
長い夜に、ぬくもりを灯すとき|アロマ

オレンジスイート・ローズマリー・マージョラム・サンダルウッド
九月の夜は、香りがよくなじみます。
窓を少し開けると、どこかの家の夕ごはんの匂いと、湿った草の匂いが混ざって入ってくる。夏のあいだ冷房で閉めきっていた部屋に、外の空気が戻ってくる季節です。日が暮れるのが早くなったぶん、部屋に香りをひとつ灯すと、夜がちょっとしたごほうびの時間に変わります。
オレンジスイートは、ひなたの香り。皮をむいた瞬間にはじけるような、明るくて甘い柑橘の匂いです。日が短くなって、夕方に気持ちがしぼんでしまうとき、この香りは子どもみたいな無邪気さを、部屋いっぱいに連れてきてくれます。冷えやすくなった胃腸をあたためるのも、得意なところ。
ローズマリーは、朝の頭に風を通す香り。すっきりとした青い香りが、夏休みモードのままぼんやりしていた頭を、しゃきっと目覚めさせてくれます。九月は、仕事も学校も、暮らしのリズムがまた動きだす月。「よし」と小さく気合いを入れたい朝に、背中をそっと押してくれる一種です。
マージョラムは、ぬくもりの香り。ほんのりスパイシーで、どこかやさしい甘さがあります。朝晩の冷えでこわばった肩や、ひとりの夜の心細さを、じんわりあたためてくれる。古代ギリシャでは、幸せを運ぶ香りとして大切にされてきました。
サンダルウッドは、静けさの香り。お寺の奥の、ひんやりした空気を思わせる、深く甘い木の匂いです。一日の考えごとを、一枚ずつ脱いでたたんでいくように、頭の中を片づけてくれる。灯りを落とした部屋で、自分とふたりきりになりたい夜に。
取り入れ方
朝:オレンジスイート+ローズマリー(各1滴)をティッシュに。カーテンを開けて、秋の光のなかで深呼吸を三度。今日の楽しみをひとつ思い浮かべながら。
夜:マージョラム+サンダルウッド(各1滴)を手のひらに。両手で包んで目を閉じ、息を吐くたびに、肩の力が下へおりていくのを感じる時間に。
💡 ポイント 九月からは、香りを「涼しさ」から「ぬくもり」へ、少しずつ移していく時期。夏に使っていた香りを使いきったら、次の一本は、あたたかみのある香りを選んでみてください。(妊娠中の方、血圧が高めの方は、オレンジスイートとサンダルウッドの二種で。)
月夜のリチュアル

九月は、月がきれいな月です。
夏のあいだ湿っていた空気が、少しずつ澄んでいく。夜、ベランダに出ると、思っていたより高いところに、白い月が浮かんでいる。虫の声のなかで見上げる月は、どこか、なつかしい人の顔のようにも見えます。
そして、お月見の季節がやってきます。長くなった夜のはじまりに、月の光のそばで、自分だけの小さなリチュアルをしてみませんか。
アロマのリチュアル サンダルウッドを一滴、手のひらに。窓辺で月を見上げながら、深く三度、息を吸う。吐く息といっしょに、この夏がんばった自分へ「おつかれさま」と伝えるように。
ハーブのリチュアル カモミールとリンデンを淹れて、湯気の立つカップを月明かりの下へ。カップの水面に月が映ったら、その月ごと飲みほすつもりで、ゆっくりと。
フラワーエッセンスのリチュアル 透明なグラスに水を注ぎ、選んだエッセンスを数滴。月の見える場所にしばらく置いてから、一口。その前に、秋へ持っていきたい気持ちをひとつだけ、心の中で月に打ち明けてみてください。
九月の月夜は、一年に一度だけ。どうかその光の中で、すこしだけ、自分をいたわってあげてください。
この九月に使いたい植物たち|まとめ
アロマ(精油) □ オレンジスイート □ ローズマリー □ マージョラム □ サンダルウッド
ハーブ(ティー) □ カモミール □ マロウ □ リンデン
フラワーエッセンス □ マスタード(理由のわからない憂うつに) □ ホワイトチェストナット(考えがぐるぐる回る夜に) □ スクレランサス(気持ちがシーソーのように揺れるとき)
直感で選んだ一種から始めてみてください。あなたが手に取りたいと思ったものが、今のあなたに必要なものです。
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