冬至に香らせたい、ローズマリーの記憶
12月22日は、冬至ですね。
一年でいちばん夜が長く、光がいちばん遠く感じられる日。
暦の上では、ここから少しずつ、また日が伸びていきます。
一年間、星座ごとに精油、ハーブ、フラワーエッセンスをご紹介してきましたが、今回からは少し視点を変えて、季節ごとの植物にまつわるお話を書いていこうと思います。
占星術の流れを意識しながらも、もう少し暮らしに近い場所で、植物がどのように人と関わってきたのか。その背景や使われ方を、静かに辿っていくシリーズです。
最初に選んだのは、冬至のローズマリー。
料理や香りのハーブとして親しまれていますが、歴史をひもとくと、ローズマリーは長いあいだ「記憶のハーブ」として、人が人生の節目に立つとき、そっと手に取られてきた植物でした。
ローズマリーと記憶の結びつきは、古代ギリシャにまでさかのぼります。学ぶ人や弁論を行う人が、集中力と明晰さを保つためにローズマリーの枝を身につけていた、という記録があります。ここで言う記憶とは、単なる暗記力ではなく、「自分が何を知り、何を語ろうとしているのか」をはっきり意識する力のことでした。
この考え方は中世ヨーロッパにも引き継がれ、ローズマリーは裁判や誓約の場で使われるようになります。証言台の近くに枝を置いたり、誓いを立てる際に手に持たせたりする風習がありました。ローズマリーの前では嘘をつきにくい、忘れたふりができない――そう信じられていたのです。問われていたのは、正しさ以上に「自分の言葉に責任を持っているかどうか」でした。
同じ植物が、葬儀の場にも登場します。近世のイングランドやフランスでは、参列者がローズマリーの小枝を持ち、墓に投げ入れる習慣がありました。それは死者を呼び戻すためではなく、「この人を忘れない」という意思を示す行為です。ローズマリーは、亡くなった人のためというより、残された人が記憶を抱えたまま生きていくための植物でした。

結婚の場でも、ローズマリーは使われてきました。花嫁がローズマリーを編み込んだ小枝を持つ、あるいは贈り合うという風習は、「愛」を象徴すると同時に、「この選択を忘れない」という誓いを、
言葉ではなく、香りとして身体に残す意味を持っていました。人生の始まりと終わり、その両方に同じ植物が置かれていたことは、とても象徴的です。
こうした歴史を見ていくと、ローズマリーは特別な力を与える魔法のハーブというよりも、「自分の人生をきちんと記憶しているためのハーブ」だったことがわかります。選んできた道、交わした言葉、積み重ねてきた時間を、なかったことにしない。そんな場面で、この香りは使われてきたようです。
冬至は、一年の中でいったん流れが止まり、ここからまた新しい季節へ向かう節目です。大きな意味づけをしなくても、植物の香りをひとつ取り入れるだけで、暮らしの感覚は自然と整っていきます。
みなさんも、この冬至に、ローズマリーを香らせてみてはいかがでしょうか。
ディフューザーで空気を整える、枝を短く切って花瓶に挿す、ハーブティーとして楽しむ。どれも、日常の延長で気軽にできる取り入れ方です。
ローズマリーのクリアな香りは、頭をすっきりさせ、呼吸を深くし、冬に入りがちな巡りを心地よく支えてくれます。古くから大切な場面で使われてきた理由も、こうした実感の積み重ねにあったのかもしれません。
冬至という節目を、特別な行事にしなくても大丈夫。
いつもの暮らしに、ひと枝、ひとしずく。
キッチンや部屋のどこかで、ふと立ちのぼるローズマリーの香り。
その流れの中で、静かに季節を迎える。
そんな過ごし方も、この時期らしく美しい選択です。
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